7月の旅で帰路、ブエノスアイレスからサンパウロまでの便で、3人掛けの真ん中の席、ミドルシートになった。左の窓側はフィガロ紙を読んでいたフランス人の女性、右側は、身なりはいいけど、すこしだけ体がアームレストからこっちへはみ出してくる60歳くらいの男性だった。男性が話しかけてきて、サンパウロは多様性のある大都市だとか、アルゼンチンは様々な文化の混じり合った国だとか、タンゴを踊るアルゼンチン人は実際は少ないとか、そんな話を聞かせてもらった。英語なんだけど、かなり他の言語がミックスされていて、聞きにくい感じだった。辛抱強くわかるまで聞いて、わからなければ質問すればいいんだけれど、彼の英語は日本で言ったら、英検三級程度のように感じられた。何度も聞き返したり、表現を変えたりしながら、なんとかコミュニケーションを取った。彼は、おじいさんが移民でイタリアからやってきたこと、イタリア語やイタリアの文化をおじいさんから習ったことを教えてくれた。
私との会話が途切れると、彼は窓側席のフランス人女性とフランス語で話し始めた。何なんだ、このおじさんと思ったら、フランス語の会話の中で、自分は大学教授をしているという言葉が聞こえてきた。
降機するときに、またおじさんと話をして、「あなたは大学の先生なのか」と聞いたら、そうだ、と答えて、自分の専攻や、著書のことについて語り始めた。何冊も書いているぞ、とのことだ。名前も教えてくれて、グーグルしてみな、と言っていた。
でも、ちょっと待った。大学教授の英語が英検三級程度ということは日本では考えられないでしょう。専門書も英語のものが多いし、国際学会だって英語でしょう。でも、なぜアルゼンチンの大学教授の英語がこの程度なんだ、と考えてみると、もしかしたらこうなのかな、という仮説がいくつか浮かんできた。
1 スペイン語圏がそこだけでかなり完結していて、人的交流や、書物もスペイン語で十分事が足りる。
2 彼はフランス語ができるので、英語の必要性が下がる。
3 彼は大学教授であって、英語の書物も読みこなせるけれども、60歳という年齢もあって、彼が若いときに外国語として英語を勉強したときに、音声教材が充実していなかった。だから、読めるけど、会話に弱いという、日本人の英語に近い状況になっている。
どれなんだろう、多分1番のような気がする。大スペイン語圏ですよね。中米から南米大陸。メキシコシティからブエノスアイレスまでのフライトは11時間よ、と友達になったメキシコ人のJちゃんが言っていた。もちろんスペイン本国もある。
日本では世界の中心はアメリカで、とにかく英語、みたいになっていますけれども、世界には英語圏とは別の空間があって、大学教授でさえも英語をあんまり重視していない場所があるんですね。
美術館で美しい彫刻を見たら、右からも左からも、上からも下からも見たいと思う。ならば、この世界を見る目が、アメリカ合衆国や英語を通して見る視点だけだったら、つまらないよね。そんなことを考えさせられたのでした。
サンパウロの空港で別れる時に、お仕事ですか、と聞いたら、おじさん、professor friends に会うんだ、と言っていた。ブラジルはポルトガル語ですね。この人、ポルトガル語もイケるんだな(笑)。
スペイン語、フランス語、イタリア語、英語、ポルトガル語。レベルはどうなのか完全にはわかりませんが、5カ国語を自然に使える人がアルゼンチンにはいるんですね。
アルゼンチンでは、イタリアのパスタが美味しいよ、と力説してたおじさん、確かに、ブエノスアイレスのパスタやピザは安くて美味しかったですよ。テーブルクロスのかかったレストランでも熱々のピザ一切れ100円から200円くらいで食べられる。ここはやはりパラダイスなのか?
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